「質問通告」について(続・危機管理の視点から-被害局限措置)

 ①菅原前経産大臣の辞任、②河合前法務大臣の辞任、③英語民間試験の利用延期と政権側の失点が3つ続いて、野党側(維新を除く)が意気軒昂です。

 以前から指摘のあった人物を就任させたこと(①)、選挙運動での脇の甘さ(または岸田派との遺恨? ②)、入試に関する制度設計の拙さ(③)、といずれも痛い失点ですが、前の記事で書いたように、失点(危機の発生)を所与の前提として、これに対する危機管理の素早さは、さすがだと思いました。もっとも、前の記事で「一日の長ならぬ百年の長」と書きましたが、安倍総理の個人的な経験を踏まえると、バンソウコウ大臣等の一連の苦い経験から来ているのかもしれません。「百年の長」は持ち上げ過ぎでした。

 日本人は得てして積極的な攻撃を重視し、被害の発生を所与として、それを最少化する被害局限措置(damage controlに対する意識が薄いということは、危機管理の第一人者である故・佐々敦之氏の著作などで強調されています。氏の御著書では確か、米国海軍が、艦内火災の消火の研究に尽力した消防関係者に勲章を授与したという事例が紹介されていました(おって、原典に当たり、正確な記述に改めます)。攻撃には強いが、ダメージとうまく付き合えない…これは一部の野党関係者のみならず、日本人が広く共有するミームのようなものかもしれません。

 「事態が良くなるかもしれない」という曖昧な期待に引っ張られて遅きに失し、ダメージを甚大にしてしまうことの恐ろしさについて、最も的確に語っておられる方が関係者の中におられます。それは今井雅人議員です。

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「“押し引き”が勝負の極意」 ―今井雅人 氏 [中編]
 http://forexpress.com/columns/blog.php?ID=531&uID=tfx

 熟練トレーダーの金言には味わい深いものがあります。ダメージが金額という具体的な数値で現われる厳しい世界で得られた教訓ですね。今井氏の重視するロスカットという被害局限措置に着目すると、なぜ氏が民主党(原口グループ)→日本維新の会・維新の党・松野グループ→希望の党→国民民主党→無所属(立憲民主党・無所属フォーラム)と所属を変え続けて来たかが理解できるような気がします。節操がないのではなく、合理的にロス(使えない政党)をカットをしてこられたのではないでしょうか。もっともトレードの世界とは違って、政界では人情が大いに絡みますから、想定外の結果も招くかもしれませんね。

「質問通告」について(続・危機管理の視点から-手続論による防御)

 昨日の記事の視点をマクロなものとすると、今日取り扱うのは、危機管理上のミクロ(具体的)な手法に関わることといえます。

 森ゆうこ議員が、トップに固定したツイートで強調していることがあります。

  これは、質問通告が遅れたか否かという問題に関し、「予算委員会理事会で云々」という手続面で自己の正当化を図る対応と言えましょう。「手続」の対義語は「実体」で、「森議員が何時何分にどんなペーパーを出したか」という、通告に関する生の事実関係がこれに当ります。この実体=「森議員が何時何分にどんなペーパーを出したか」については、たしか音喜多議員が「資料を公開すればそれで済むこと」とどこかで述べておられたと思いますが(すみません、URLを発見できていません)、まさにその通りで、予算委員会理事会で云々という話は二次的な証拠にしかなりません。

 いわゆる「手続的正義」(due process)は、専門性が高かったりして実体に立ち入った判断が難しい場合に、外形上に現われたもので代替的に判断し、ある程度の正しさを担保するという機能を果たします。これは法律学の歴史的な貢献の一つですが、
・「実体」(いつ、どんなペーパーを出したか)において不利な場合に、
・「手続」(理事会ガー!)で対抗するという、防御手段ともなります。
森氏のツイートは、まさにこの実例と言えましょう。

 森氏は、役所に対して常々透明性を求めてこられた方ですから、「まず隗より始めよ」、お手本として手元にあるペーパーをお出しになったらいいのではないでしょうか。そのペーパーが自分にとって誠に都合が悪いということであれば、「理事会ガー!」という手続論で対抗するのは危機管理としてオーソドックスな対応と思います。が、手続論でしか対抗できないとすると、やっぱりあの日の質問通告は、相当におそk..(以下ry


 ところで、予算委員会理事会という党派間の利害が渦巻く場にお墨付きを求めてしまったら、明示的であれ暗黙であれバーターのタマにされないんでしょうかね。「こっちは譲るから、あっちの話はよろしく」とか…与党側も問題を抱えてますからね。もし政府与党を舌鋒鋭く追及してこられた森氏が、いわゆる「国対政治」に助けを求めてしまっているのだとしたら、それもまた残念なこと、ということになりましょうか。

 次回はもう一つ、危機管理をテーマにして書いてみたいと思います。

「質問通告」について(危機管理の視点から)

 議員の品格について書くと予告したんですが、気が変わりまして(笑)、ここ数日のニュースで感じたことを少し。

 「危機管理」という観点から見た場合、自民党の対応には、国民民主党にくらべて、一日の長どころか百年の長があるように思います。最近の自民党の失点といえば、菅原前経産大臣の不祥事と萩生田文科大臣の「身の丈にあった」という失言です。対応のスピードを比べてみましょう。

菅原前大臣:週刊文春の初報が10月10日
                                      → 辞任(事実上の更迭)が25日(足かけ16日)
萩生田大臣:BS放送での発言が10月24日

                                      → 陳謝が28日(足かけ5日)
森ゆうこ氏:通告遅れが10月11日~12日

                                       → 継続・拡大中

 不祥事型の危機管理の定石は、
①まず、正確な事実関係の把握に全力を挙げる。
②事実関係が確定するまで、調査中である旨をアナウンスし、情報発信を止める
③調査の上、認めるべき失態を認めて陳謝する、必要があれば関係者を処分
の3ステップと言えます。

    これらを可能な限り短期間で行うのです。ただし、事実関係の調査に落ち度があってはいけません。事実関係で訂正が生じた場合、隠蔽を疑われ、事態の悪化・長期化を招くことになります。

 菅原前大臣の場合、特に香典の問題が確定したところで迅速な判断が下されたものと思われます。

 萩生田大臣の場合、事実関係は初めから明らかですから、「まずい」と思った時点で早々に陳謝を行ったのでしょう。

 森ゆうこ氏の場合、
 ①については、玉木代表が次のように述べておられます。

 事実関係の確定に動いていることがうかがわれます。これは定石通り。

 ②については、党の代表が報告を約束しているにもかかわらず、16日に原口一博氏(国民民主党国対委員長)等が記者会見を開き、「情報漏洩の問題だ」と称して追及チームを立ち上げると発表してしまいました。

 この段階で、危機管理の定石(事実関係を確定するまで、情報発信を止める)から外れるとともに、論点を「通告の遅れ」という(謝ればすむ)単純なものから、「情報漏洩」「質問権の侵害」へとすり替えていったために、事態の早期収拾を不可能にし、騒動を継続、拡散させるという絵に描いたような悪手になってしまいました。また、このように組織の代表(玉木氏)を露骨に軽んじる行為は、騒動本体とともに、国民民主党に期待する無党派の穏健保守層の支持を減じていくボディーブローとなるでしょう。

 玉木氏と原口氏双方に対する信用が毀損されつつあります。原口さんのような立派な方がどうしてこういう行動に出たのか、多くの人が首をかしげていますが、私もその一人です。原口さんにとっての森氏が、前原さんにとっての永田寿康氏のようなものにならなければよいのですが、そうなりつつある観が…

 ところで、サンデー毎日(2019年10月29日)には、森ゆうこ氏と、森氏とタッグを組んでいると見られる毎日新聞専門編集委員の倉重篤郎氏の対談が掲載されています。冒頭のみネットで見られますが、菅原大臣辞任についての倉重氏の見立てが振るっています。

 菅原一秀経産相の贈答疑惑による辞任で安倍政権が揺らぐなか、もう一つの事件が参院で進行中だ。森ゆうこ参院議員の質問通告漏洩問題である。…菅原一秀氏が選挙区贈答疑惑でスピード辞任した。野党の追及にもうもたないとの政権中枢の判断だ。「文春砲」の決定打があったとはいえ、この国会で統一会派を組んだ野党からすると、戦闘能力強化の成果と言えなくもない

 いやいや、だからこれは(文春砲の威力と)国民民主党の何倍も上手の自民党の危機管理能力を示す事例であって、よりによって森さんが偉そうに論じられるテーマじゃないですよ。森さん自身が萩生田氏のようにスパッと謝るか、玉木さん、原口さんが安倍さんのように患部をスパッと切り捨てるかできればこんなことにはならなかったんだけどなぁ。

 こういう危機管理が下手糞という視点から、かの大震災や原発事故を思い起こすと、当時の政権党が民主党だったのは「不幸中の幸い」ならぬ、「不幸中の不幸」だったということでしょうか。総理が野田さんだったら、まだ違っていたようにも思いますが。


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 ちなみに、故永田氏のお名前を出すに際し、いくつかのサイトを閲覧したところ、こんな記事を見つけました。

     「偽メール事件」の永田議員の自殺について - ダメダメ家庭の目次録 - Medium

   永田氏のお父上がここでの推察のように行動されたのかはともかく、子を持つ親として深く考えさせられる記事でした。

「質問通告」について(日本共産党の場合)

 twitter上での玉木雄一郎議員(国民民主党代表)と松井孝治内閣官房副長官のやりとりの中に次のようなものがありました。

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                                       https://twitter.com/tamakiyuichiro/status/1182772878975987712

 
    私の古い経験に照らすと、「なるほど」と思えます。

 「共産党なんて野党中の野党だから、通告も遅いし、内容も森ゆうこ氏なみにスカスカだろう」と思われるかもしれませんが、私の経験の範囲内でいえばその反対で、きちんと通告してくれるし、質問の内容も詳細に伝えるのがふつうでした。レク(質問取り)に行きますと、議員またはしかるべき秘書(共産党では、議員と秘書の間の地位上の違いはあまりなさそうです)が、一つ一つ詳細に教えてくれ、そして政府側の答弁がどのようなものになるかを尋ねてきます(ここが重要!)。

 つまり、「質問者がこう尋ねると、政府側はこう答え、それに対して質問者がこう尋ねると、政府側が…」とプロットを描いて双方の論理の道筋と対立点を明確にしていくことを重んじているのだと理解していました。

 質疑の翌日の赤旗では、質疑の概要が掲載され(もちろん、共産党視点で描写されます)、最後に政府側が「あいまいな答弁に終始しました」みたいな締めで終わるんですが、政党ですからそういう党派的な視点での描写は事実に反しない限り当然のことと思います。このようなバイアスがかかるにせよ、ロジカルな議論を行って争点を明確にし、それを有権者に提示するという姿勢は、森ゆうこ氏や一部の議員さんたちの姿勢とは対照的だと思います。共産党がいかにも議会制民主主義チックにふるまい、国民民主党(の一部)が揚げ足取りや人民裁判に走るというのは、何とも皮肉な光景だと思います。

 いや、人民裁判と書いたのは、この動画を見て昔受けたトラウマがよみがえったからです。

  国会議員相手にこれをやるなら結構ですが、格下の相手にこれはない。こういう力や地位の格差がある時に、弱い相手をどう取り扱うか…この点でその人の「品格」は如実に現れます。次回は私がこういう場で経験したことと、数名の議員さんの品格について書いてみましょう。

 

「質問通告」について(事前公開、海外の事例、注目している議員さんたち)

 質問通告の遅延という、率直に謝ればそれで終わる問題を、メンツにこだわってなのか質問権の侵害だとか、情報漏洩だとか、「犯人」捜しだとか、壮大に見苦しい展開になってきました。

 自分自身は内部告発を募集しといて、自分に都合の悪い内部告発はケシカラン!といえる森議員の強心臓は賞賛に値しますが、

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室橋祐貴氏が言われるように、通告した質問は広く、早く国民に公開されるべき情報であり、「質問権の侵害」という理屈は実に謎です。むしろ公開する方が、何かの裏取引で質問を取りやめるような事態を防止できる、議会制民主主義にかなう対応だと思います。森ゆうこ議員は「私の質問を封じようとする動きがあるのではないか」と言ったそうですが、事前に公開しておけば誰も封じられませんよ♪

 ところで、室橋氏の論考中には、イギリス、ドイツ、フランスの議会での事前通告に関するルールが紹介されていました。

海外の「質問通告制度」
 実際、日本が議院内閣制の範とするイギリスでも、答弁は官僚が作成している。議員による事前通告は、3会議日前の昼までに書面で通告することが原則である。

 他にも、同じく議院内閣制のドイツでは、前週金曜日が期限となっており、こちらも官僚が想定問答を作成する。

 フランスは、大臣を中心としたチームのスタッフ(政治任用の補佐官)が答弁を作成するが、原則として会期が始まる時点で、何月のどの週のどの時間帯で、どのような質問(質問のタイプと会派ごとの割り当て)が行われるかが決まっている。そして事前通告の提出期限は2週間前となっている。

 このように、諸外国では答弁作成時間に余裕があり、官僚が連日深夜残業を強いられる状況にはない。https://news.yahoo.co.jp/byline/murohashiyuki/20191021-00147301/

 EU離脱問題に関するニュースの中でも、イギリス下院における政治家同士の堂々たる議論を目にしましたが、あの光景の背後にはこういうルールがあったのかと、目から鱗でした。政治家同士の骨太の議論を志した往時の政治改革の理想はどこに行ってしまったんでしょうね。

 何やら国民民主党だけでなく、立憲民主党まで巻き込んで「犯人」さがしを始めるという愚かな対応が始まりつつある現状を見て、個人的にその対応を注目している議員さんが数名おられます。いずれも、質問通告を遅らせるということの意地悪さを身に染みて知っているはずの議員さんたちです。

   玉木 雄一郎(国民民主党・代表、財務省出身)

   古川 元久(国民民主党・代表代行、財務省出身)

   岸本 周平(国民民主党・選対委員長、財務省出身)

   小川 淳也(立憲民主党・代表特別補佐、総務省出身)

 玉木さんは既にある程度態度を表明されています。個人的に知っているのは小川さんですが、とても誠実な方です。岸本さんは昔の仕事上接点がありましたが、彼にまつわる某非重大事件についての弁明には納得していません。今回の問題に対する対応次第で好感度急上昇かな(笑) 古川さんは大学・学部で同期だけど、スゴイ人すぎてよく知んない♪

「質問通告」について(なぜ具体的な通告が必要なのか)

なぜ具体的な質問通告が必要なのか、よくわかる動画がこちらです。下のほうの動画です。

 

 言論の府のはずが、まったく意味のないやりとりになっています。「森羅万象をつかさどっているんでしょ?」という、嫌味にさえ達しない毒を吐くのが目的だったのでしょうか…税金と時間の無駄づかいです。

 これを素材にして考えてみましょう。
 森議員の「内外の諸情勢と平成31年度予算について」という通告(というか、無通告に等しいんだけど)に対し、国民の代表者たる議員と大臣、副大臣等が実質のある議論をするためには

① 内外の諸情勢に関わる全省庁(関わらない省庁なんてありませんw)の全関係者が、

② 内外の諸情勢に関わ るあらゆる問題について、

③ 想定問答を練り、委員会前の短時間の朝レクで偉い大臣たちがすんなり理解できるような言い回しを考え、「簡潔しかし十分でしかも分かりやすいという神業のような手元資料」を作らなければならない、

④ また、大臣に説明する局長、課長にも事前のレクチャーをしておかなければならない。

⑤ こういうレクをやってれば、人によっては細かい質問も出ますから、そこから奇跡のような短時間で資料を入手し、事実関係を調べ、またまた「簡潔しかし十分でしかも分かりやすいという神業のような資料」を作らなければならない、

ということになります。

 実際にはそんなの無理ですから、以前は政府委員(局長級、ときに課長級)が多くの答弁を担い、基本的な方針等について大臣が答えていたのですが、森ゆうこ氏の師である小沢一郎氏の肝煎りで、政府委員制度を廃止して政治家同士(議員と大臣、副大臣大臣政務官)で骨太の議論をしようということになりました。その結果として、政治家同士の議論の実を挙げるために具体的な質問項目の通告が行われているのです。

 森議員のように、「森羅万象、何でもすぐ答えろ」式の質問を大臣たちに投げ、ミスを誘ったり、揚げ足をとったりすることは、志高き政治改革の趣旨を汚すものだと思います。

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 ところで、私はもう十数年前に行政官の世界から足を洗って、あまり近づかないようにしている人間ですから、このブログに書いていることは情報として古くなっている可能性があります。「最近は、こうなっていますよ」といったフレッシュな情報がありましたら、コメ欄で教えていただけると幸いです。